FreeBSD ハンドブック : 開発の最前線: FreeBSD-current と FreeBSD-stable : インターネットを通じたソースツリーの同期 : CVSup
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17.3.3. CVSup

原作: John Polstra <jdp@FreeBSD.ORG>.

訳: 岩崎 満 <iwasaki@jp.FreeBSD.org>.
27 February 1997.

17.3.3.1. CVSup の紹介

CVSup は, リモートのサーバホストにあるマスタ CVS リポジトリから ソースツリーを配布し更新するためのソフトウェアパッケージです. FreeBSD のソースは, カリフォルニアにある中心的な開発マシンの CVS リポジトリの 中でメンテナンスしています. CVSup を使用することで, FreeBSD ユーザは 簡単に自分のソースツリーを最新の状態にしておくことができます.

CVSup は pull モデルとよばれる更新のモデルを採用しています. pull モデルでは, 各クライアントが更新したい場合に更新したい時点で, サーバに更新の問い合わせをおこないます. サーバはクライアントからの 更新の要求を受け身の状態で待ちます. したがって, すべての更新は クライアント主導でおこなわれます. サーバは頼まれもしない更新情報を 送るようなことはしません. ユーザは CVSup クライアントを手動で実行して 更新をおこなうか, cron ジョブを設定して定期的に自動実行する必要があります.

用語 "CVSup" のように大文字で表記しているものは, ソフトウェアパッケージ 全体を指します. 主な構成物は, 各ユーザマシンで実行するクライアントである "cvsup", FreeBSD の各ミラーサイトで実行するサーバ "cvsupd" です.

FreeBSD の文書やメーリングリストを読んだ際に, sup についての言及を 見かけたかもしれません. sup は CVSup の前に存在していたもので, 同様の 目的で使われていました. CVSup は sup と同じように使用されており, 実際, sup と互換性のあるコンフィグレーションファイルを使用します. CVSup の方がより高速で柔軟性もあるので, もはや sup は FreeBSD プロジェクトでは使用されていません.

17.3.3.2. CVSup のインストール

FreeBSD 2.2 以降を使用している場合, CVSup をインストールするもっとも 簡単な方法は, FreeBSD ports コレクションport または対応する バイナリ package を使うことです. どちらを使うかは, CVSupを自分で作りたいかどうかによります.

FreeBSD-2.1.6 または 2.1.7 を使用している場合は, 残念ながら FreeBSD-2.1.{6,7} には存在しないバージョンの C ライブラリが必要となるため バイナリ package は使用できません. しかし, port は FreeBSD 2.2 とまったく同じように簡単に使うことができます. 単に tar ファイルを展開し, cvsup ディレクトリへ cd して "make install" とタイプするだけです.

CVSup は Modula-3 で書かれているため, package と port 両方とも Modula-3 ランタイムライブラリがインストールされていることが必要です. これらは port の lang/modula-3-lib および package の lang/modula-3-lib-3.6 にあります. これらのライブラリの port や package に対して cvsup と同じ管理方法を取っていれば, CVSup の port や package をインストールする際に, これらのライブラリも自動的に コンパイルそして/またはインストールされます.

Modula-3 ライブラリはかなり大きく, これらの転送やコンパイルはすぐに 終わるものではありません. この理由から, 三つめの選択肢が提供されています. 以下のアメリカ合衆国にある配布サイトのどちらからでも, FreeBSD 用の スタティックリンクされた CVSup 実行形式が入手可能です:

また, 世界中にあるたくさんの FreeBSD FTP ミラーサイト からも入手可能です.

ほとんどのユーザはクライアントのみが必要になるでしょう. これらの 実行形式は完全に自己完結しており, FreeBSD-2.1.0 から FreeBSD-current までの, どのバージョンでも動作します.

まとめると, CVSup をインストールするための選択肢は以下の通りです:

17.3.3.3. CVSup のコンフィグレーション

CVSup の動作は, "supfile" と呼ばれるコンフィグレーションファイルで 制御します. FreeBSD-2.2 からは, supfile のサンプルがディレクトリ /usr/share/examples/cvsup の下にあります. 2.2 以前のシステムを使用している場合は, これらの サンプルを ftp://ftp.freebsd.org/pub/FreeBSD/FreeBSD-current/src/share/examples/cvsup/ から入手することができます.

supfile には以下の cvsup に関する質問への答えを記述します:

次のセクションで, これらの質問に順番に答えながら典型的な supfile を組み立てていきます. 最初に supfile の全体構造を説明します.

supfile はテキストファイルです. コメントは "#" から行末までです. 空行とコメントだけの行は無視します.

残りの各行には, ユーザが受け取りたいファイル群について記述します. 行の始めは, サーバ側で定義した論理的なファイルのグループである 「コレクション」の名称です. コレクションの名称を指定して, 欲しいファイル群を サーバに伝えます. コレクション名の後には, ホワイトスペースで区切られた 0個以上のフィールドが続きます. これらのフィールドが上記の質問に対する 答えになります. フィールドには 2種類あります: flag フィールドと value フィールドです. flag フィールドは "delete" や "compress" のような 単独のキーワードから成ります. また, value フィールドもキーワードで 始まりますが, キーワードの後にはホワイトスペースは入らず, "=" と 二つめの単語が続きます. 例えば, "release=cvs" は value フィールドです.

通常, supfile には受け取りたいコレクションを一つ以上指定します. supfile を組み立てる一つの方法として, コレクション毎にすべての関係の あるフィールドを明示的に指定する方法があります. しかし, これでは supfile のすべてのコレクションに対してほとんどのフィールドが同じになるため, 行が非常に長くなってしまい不便になります. これらの問題を避けるため, CVSup ではデフォルトを指定することのできるメカニズムが提供されています. 特殊な擬似コレクション名 "*default" で始まる行は, supfile 中の後続の コレクションに対して使用する flag フィールドと value フィールドの デフォルトを設定するために利用できます. 個々のコレクションで固有の値を 指定すると, デフォルト値を無効にできます. また "*default" 行を追加すると, supfile の途中からデフォルト値の変更や追加が可能になります.

これまでの予備知識を基に, FreeBSD-current のメインのソースツリーを受け取って更新するための supfile を 組み立ててみましょう.

17.3.3.4. CVSup の実行

さて, 更新の準備ができました. これを実行するコマンドラインは 実に簡単です:

  cvsup supfile

もちろん, ここでの "supfile" は作成したばかりの supfile のファイル名です. X11 環境で実行するものと仮定して, cvsup は 通常の操作に必要なボタンを持つ GUI ウィンドウを表示します. "go" ボタンを押して, 実行を監視してください.

この例では実際の "/usr/src" ツリーを更新しているので, cvsup にファイルを更新するのに必要なパーミッションを与えるために, ユーザ root で実行する必要があります. コンフィグレーションファイルを作ったばかりで, しかも以前にこのプログラムを実行したことがないので, 神経質になるのは 無理もない話だと思います. 大切なファイルに触らずに試しに実行する簡単な 方法があります. どこか適当な場所に空のディレクトリを作成して, コマンドラインの引数で指定するだけです:

  mkdir /var/tmp/dest
  cvsup supfile /var/tmp/dest

指定したディレクトリは, すべての更新されるファイルの 更新先ディレクトリとして使用します. CVSup は "/usr/src" の下の ファイルを検査しますが, 変更や削除はまったくおこないません. かわりに "/var/tmp/dest/usr/src" に更新されたすべてのファイルが 置かれるようになります. この方法で実行した場合は, CVSup は base ディレクトリの status ファイルを更新せずにそのままにします. これらのファイルの新しいバージョンは指定されたディレクトリ に書き込まれます. "/usr/src" の読み取り許可がある限り, このような 試し実行のためにユーザ root になる必要はありません.

X11 を利用していないとか単に GUI が気に入らない場合は, cvsup 起動時にコマンドラインに二つほどオプションを追加する必要があります:

  cvsup -g -L 2 supfile

"-g" オプションは cvsup に GUI を使用しないように伝えます. X11 を利用していない場合には自動的に指定されますが, そうでない場合は 明示的に指定します.

"-L 2" オプションは cvsup にファイル更新中の詳細情報をプリントアウト するように伝えます. 冗長性には "-L 0" から "-L 2" までの三つのレベル があります. デフォルトは 0 であり, エラーメッセージ以外はまったく出力 しません.

たくさんの他のオプション変数があります. それらの簡単な一覧は "cvsup -H" で表示されます. より詳しい説明はマニュアルページをご覧ください.

動作している更新の方法に満足したら, cron(8) を使って cvsup を定期的に 実行させる準備をすることができます. cron から起動する際には, 明示的に cvsup が GUI を使わないようにする必要があります.

17.3.3.5. CVSup ファイルコレクション

CVSup 経由で入手できるファイルコレクションは階層的に組織化されています. いくつか大きなコレクションがあり, それらは小さなサブコレクションに 分割されています. 大きなコレクションは, そのサブコレクション毎に 受信することと同じことになります. 下の一覧ではコレクション間の階層関係を 字下げして表現します.

最も一般的に使用するコレクションは src-all, cvs-crypto, そして ports-all です. 他のコレクションは特別な目的を持つ人達だけが 使用しており, ミラーサイトはそれらのすべてを持っていないかもしれません.

cvs-all release=cvs

メインの FreeBSD CVS リポジトリであり, 輸出規制された暗号化コードは含まれていません.

distrib release=cvs

FreeBSD の配布とミラーに関連するファイルです.

doc-all release=cvs

FreeBSD ハンドブックおよびその他のドキュメントのソースです.

ports-all release=cvs

FreeBSD の ports コレクションです.

ports-archivers release=cvs

アーカイビングのツール.

ports-astro release=cvs

天文学関連の ports.

ports-audio release=cvs

サウンドサポート.

ports-base release=cvs

/usr/ports のトップにあるその他のファイル.

ports-benchmarks release=cvs

ベンチマークプログラム.

ports-biology release=cvs

植物学関連のプログラム.

ports-cad release=cvs

CAD ツール.

ports-chinese release=cvs

中国語サポート.

ports-comms release=cvs

通信ソフトウェア.

ports-converters release=cvs

文字コードコンバータ.

ports-databases release=cvs

データベース.

ports-deskutils release=cvs

コンピュータが発明される前に卓上で使われていたものたち.

ports-devel release=cvs

開発ユーティリティ.

ports-editors release=cvs

エディタ.

ports-emulators release=cvs

他の OS のエミュレータ.

ports-games release=cvs

ゲーム.

ports-german release=cvs

ドイツ語サポート.

ports-graphics release=cvs

グラフィックユーティリティ.

ports-japanese release=cvs

日本語サポート.

ports-korean release=cvs

韓国語サポート.

ports-lang release=cvs

プログラミング言語.

ports-mail release=cvs

メールソフトウェア.

ports-math release=cvs

数値計算ソフトウェア.

ports-mbone release=cvs

MBone アプリケーション.

ports-misc release=cvs

色々なユーティリティ.

ports-net release=cvs

ネットワーキングソフトウェア.

ports-news release=cvs

USENET ニュースのソフトウェア.

ports-plan9 release=cvs

Plan9 からの色々なプログラム.

ports-print release=cvs

印刷ソフトウェア.

ports-russian release=cvs

ロシア語サポート.

ports-security release=cvs

セキュリティユーティリティ.

ports-shells release=cvs

コマンドラインシェル.

ports-sysutils release=cvs

システムユーティリティ.

ports-textproc release=cvs

文書処理ユーティリティ(デスクトップパブリッシングは含まない).

ports-vietnamese release=cvs

ベトナム語サポート.

ports-www release=cvs

World Wide Web 関連のソフトウェア.

ports-x11 release=cvs

X window システムをサポートする ports.

ports-x11-clocks release=cvs

X11 上で動作する時計の数々.

ports-x11-fm release=cvs

X11 上で動作するファイラ.

ports-x11-fonts release=cvs

X11 のフォントとフォントユーティリティ.

ports-x11-toolkits release=cvs

X11 のツールキット.

ports-x11-wm release=cvs

X11 のウィンドウマネージャ.

src-all release=cvs

メインの FreeBSD ソース群であり, 輸出規制された暗号化コードは含まれていません.

src-base release=cvs

/usr/src のトップにあるその他のファイル.

src-bin release=cvs

シングルユーザモードで必要なユーザユーティリティ (/usr/src/bin).

src-contrib release=cvs

FreeBSD プロジェクト外部からのユーティリティおよびライブラリ, 比較的無修正 (/usr/src/contrib).

src-etc release=cvs

システムコンフィグレーションファイル (/usr/src/etc).

src-games release=cvs

ゲーム(/usr/src/games).

src-gnu release=cvs

GNU Public License 下にあるユーティリティ (/usr/src/gnu).

src-include release=cvs

ヘッダファイル (/usr/src/include).

src-kerberosIV release=cvs

KerberosIV セキュリティパッケージ (/usr/src/kerberosIV).

src-lib release=cvs

ライブラリ (/usr/src/lib).

src-libexec release=cvs

システムプログラムであり, 通常は他のプログラムから実行される (/usr/src/libexec).

src-release release=cvs

FreeBSD の release を構築するために必要なファイル (/usr/src/release).

src-sbin release=cvs

シングルユーザモード用のシステムユーティリティ(/usr/src/sbin).

src-share release=cvs

多様なシステム間で共有可能なファイル (/usr/src/share).

src-sys release=cvs

カーネル (/usr/src/sys).

src-tools release=cvs

FreeBSD の保守用の色々なツール (/usr/src/tools).

src-usrbin release=cvs

ユーザユーティリティ (/usr/src/usr.bin).

src-usrsbin release=cvs

システムユーティリティ (/usr/src/usr.sbin).

www release=cvs

World Wide Web のデータ用のソースです.

cvs-crypto release=cvs

輸出規制された暗号化コードです.

src-crypto release=cvs

輸出規制された FreeBSD プロジェクト外部からのユーティリティおよび ライブラリ, 比較的無修正 (/usr/src/crypto).

src-eBones release=cvs

Kerberos および DES (/usr/src/eBones).

src-secure release=cvs

DES (/usr/src/secure).

distrib release=self

CVSup サーバ自身のコンフィグレーションファイルです. CVSup ミラーサイトが使用します.

gnats release=current

GNATS バグトラッキングデータベースです.

mail-archive release=current

FreeBSD 関連メーリングリストのアーカイブ.

www release=current

インストールされた World Wide Web のデータです. WWW ミラーサイトが使用します.

17.3.3.6. CVSup のアナウンス, 質問およびバグ報告

CVSup のほとんどの FreeBSD 関連の議論は FreeBSD の技術的な議論のメーリングリスト <freebsd-hackers@FreeBSD.ORG> で おこなわれています. ソフトウェアの新しいバージョンは FreeBSD アナウンスメーリングリスト <freebsd-announce@FreeBSD.ORG> で アナウンスされます.

質問とバグ報告はプログラムの作者, cvsup-bugs@polstra.com へ 送ってください.


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